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7月・8月の食品衛生事故。あいかわらずの肉の加熱不足に加えて、小学校で栽培したジャガイモで食中毒発生。夏祭りのきゅうり、ラーメン店の豚肉(トロ肉)でも発生。

食品衛生の事故情報を確認していて思ったこと。
いつものように焼肉店やステーキ店での加熱不足や食べる箸で生肉を焼くといった行為でのカンピロバクター食虫毒の事故が発生。
中にはここ数年で3回目の食中毒を出した居酒屋さんが営業禁止処分を受けています。停止ではなく「禁止」。
全国ネットで食中毒が報道されるのは稀なので一般の人にはあまり知られていないのですが、資料を見ていると結構、発生していることがわかります。

7~8月の事例としては、この時期ならではというかあまり聞かない食中毒の事例が紹介されていました。
「小学校の授業で栽培したじゃがいもを食べて小学生が食中毒」という事故です。2県で発生。
ジャガイモの芽や青くなった部分に含まれるソラニンやチャコニン(カコニン)という天然毒素が原因ですが、家庭菜園等で栽培した場合、小粒のじゃがいもには全体にソラニンやチャコニンが含まれる場合があるということです。農林水産省のHPでも「小粒の芋を大量に食べ過ぎないように」と紹介されています。小粒の芋がどの程度なのか不明なのが困ります。
対策としては緑色の部分を厚く切り取るとか皮のまま食べないといったことですが、まあ、もったいないということも大事だけど、いろいろな危険があるということも知っておかないといけないのかなと思わされる事故例でした。

その他、夏祭りで浅漬けしたキュウリに串を刺して販売。それを食べた174人が食中毒。
ローカルスーパーマーケットや八百屋さんで時々みかける「自家製漬物(店内で加工)」も気になります。例えば、きちんと衛生管理ができている場所で製造した商品かどうか、あるいは使用原材料の表示をしているかどうか。対面だったら口頭で確認できるように配慮されているか。袋に入っていれば製造日や使用原材料の表示があるかどうかの確認してから購入するようにしています。

そして、ラーメン店でも発生しています。某チェーン店の1店舗で黄色ぶどう球菌による食中毒。原因食はラーメンの中に入っている「トロ肉」。これは先日、勝手に問題視した「レアチャーシュー」ではなく、(しっかりと高温で加熱されたと推測される)豚肉のバラ肉が原因とされています。
黄色ブドウ球菌はやっかいです。普通の人でも30%~の確率で鼻の奥などに保有していたり、にきびや手指の傷、そして手荒れなどでもフードスタンプ等で確認すると時折、陽性反応が現れます。
ただし、黄色ぶどう球菌単体としては10×6乗程に大量発生しないと事故につながることは少ないものの、食品中で黄色ぶどう球菌から産出されるエンテロトキシン毒素が怖い。
この毒素は100℃30分(資料により100℃ 20分)の加熱でも完全には不活性化できないという。
記憶に残っているのは某大手メーカーによる牛乳の大規模な事故ですね。停電時の機械ストップでラインが停止していた時に黄色ぶどう球菌が増加し、毒素を産出。機械再稼働後に熱処理されたため、黄色ぶどう球菌自体は不活性化されたが、熱に強い毒素が残ったことにより大量の食中毒患者を発生させる事故になってしまいました。
・黄色ぶどう球菌の不活性化温度は63℃・30分(牛乳や食肉製品の低温殺菌)や80℃・30分程度の加熱が必要というデータが多いのですが、検査機関の検証では75℃1分で10×6乗cfu/mlの殺菌効果があったというデータもあります(75℃30秒では10×3乗までしか下がらなかった)。

・[ご参考 熱に強い食中毒事故原因菌事例]
・ボツリヌス食中毒 厚生省HPより一部抜粋
 密封された食品は、120℃4分又は同等の方法で加熱するか、冷蔵保存するなどの対策が必要。
・セレウス菌 厚生省HPより一部抜粋 pdf
  芽胞は90℃、60分の加熱でも死滅せず、家庭用消毒薬も無効。米飯やめん類を作り置きしな
い。穀類の食品は室内に放置せずに調理後は8℃以下又は55℃以上で保存する
・ノロウィルス 厚生省HPより一部抜粋
 二枚貝等の汚染が心配される食材は中心部が85℃~90℃で90秒以上の加熱が望まれます。

このように、75℃1分(中心温度が75℃に達してから1分加熱)という加熱(あるいは同等の加熱処理)だけでは食中毒事故は防げません。飲食店やスーパーマーケットで食事したり買物する時に、調理者や従業員の手元に注意したり、作業場が見えれば、きちんと作業場が整理整頓され、衛生的な印象を受けるか、手洗いは頻繁にしかも適正時間されているかを確認する必要があるかも知れません。
狭い調理場で、肉とその他の食品を同じまな板や包丁などを使って調理する場合はどのような順番で、あるいはどのように洗浄消毒しているか確認できれば良いのですが、そうもいきません。
そういえばイトーヨーカドーでは店内に消毒方法を表示している店がありますね。

もっとも、露骨な視線を送れば調理者や従業員の方に不快な思いをさせるかも知れません。あくまで、そっとですね。
そして問題や疑問を感じたらその店舗のある地域の保健所に相談するのこともできます。連絡先や方法はネット検索で “◇◇県 保健所”、または“●●市 保健所”と検索すればヒットします。親切に答えてくれますよ。実際に問題があれば保健所の職員が指導をしてくれます。

店で直接、確認できれば良いのですが、他に客がいたり、こわもての従業員の雰囲気に押されて聞きにくい方は保健所へ相談することも可能(保健所の業務に差し支えるほどの長話や無理な要求やクレーマー的発言はダメヨ~ダメダメです。念のため)。
[ご参考]
事故報告ではなく保健所に疑問を問合せる時に注意した方が良いこと。
1. 住所氏名を名乗る。匿名希望の場合でも保健所の衛生担当者には名乗る。自分の正体を明かすことで、相談内容についてある程度、信憑性を担保できることと、不審人物ではないことを伝えることが可能。
2. 今回問い合わせる目的を最初に話す。また、クレーム対応ではないことを伝えること。(実際にクレーム対応ならば話は別ですが)
「買物していてor飲食店で食事していて衛生的なことで気になったので質問します」
3. あらかじめ聞きたいことを書き留めて置いて、要領よく、「5W1H(誰が、何を、いつ、どこで、なぜ、どのように」を伝えます。
4. 電話の場合は一方的に早口に話さないこと。相手がメモをとる余裕を与え、時々間を空けて相手からの意見も確認。
5. 調査は強要しないこと。必要があれば保健所が現地確認してくれます。目的は「自分の心配が杞憂なのかどうかの確認」であることを忘れないこと。
6. 問合せは相手の都合も考慮すること。窓口によっては受付時間の制約があるので、開始当初や終了間際には問合せないなどの気配りも必要。

 

食中毒事故って、報道でされるよりも思っている以上に発生しているんです。安全はすべてを優先するという気持ちを忘れたら「営業停止・禁止」処分が待っています。もちろん食べた方の健康被害に対する補償も。

とはいえ、料理の美味しさを損なわない加熱温度での調理方法を選択するのか、それとも保健所の指導通りの高温加熱で調理してわざわざ食品の美味しさを損なうのか、あるいは食品衛生上の最低限の加温と時間を担保した上で、美味しさと安全(あくまで加熱温度管理において)の両立を図るのか。
難しい選択ですが、食べる側と提供する側の相互理解が不可欠です。

皆さま、ご自愛の程。
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